sequence MIYASHITA PARK
都市に溶け込むメディアとしての縁側
様々な国のホテルの宿泊を通して思い出される記憶は、「そこで自分がどんなことを感じて、どんな過ごし方をしたか」という体験に基づいたものであった。渋谷のど真ん中に位置する「sequence MIYASHITA PARK」をデザインする時にも、そこでの過ごし方から設計を始めることにした。
プロデューサーであるウェルカムの横川正紀氏から、「渋谷に住んでいる加藤くんの部屋をデザインしてみてはどうか」と依頼された。
普段空気のように横にある渋谷の別の顔を、当時3年後に控えていたオリンピックに湧くであろう東京をイメージしながら、その未だ見えぬ景色と宿泊者をつなぐ「際」の過ごし方をデザインの軸に据えることにした。
「際」の設計というのは普段から強く意識しているテーマであり、住宅や商業施設を設計する折に「通りと建物」「人と人」「街と人」が分断されないような、あちらとこちらを繋ぐ具体的手法のことを指し、Puddleが空間づくりにおいて最も大切にしている事柄の一つである。
「sequence MIYASHITA PARK」の内装設計では、客室で過ごす人と、景色や街との際、つまり窓と一体化するような過ごし方から「縁側」という名のプラットフォームが生まれた。
床、壁、天井と家具や照明のインテリアの居心地の良さに加え、縁側によって際にフォーカスすることで、建築の規模からも渋谷の居心地の良さを取り込みたいと考えた。
240の客室にはそれぞれ異なる縁側を設定した。 バンクルーム(2段ベッド)では下層のプラットフォームと縁側をL型につなぎコミュニケーションの場を創造し、ツイン、ダブル、キングルームでは収納を兼ねた縁側で景色と一体になる過ごし方を提案し、スイートルームではソファと一体構造の音響設備を備えた縁側を用いて、それぞれの部屋にあった過ごし方の実験を試みた。また、一般的には裏に隠れてしまいがちな洗面台をベッドの近くに配置し、長い時間を街の景色の中で過ごしてもらえるようにしている。
屋上緑化された渋谷区立宮下公園からは、窓際で過ごす宿泊客の営みの一部を垣間見ることができる。都市型のホテルならではの関係性が生まれたのではないか。
- 借景と借音 -
一般的にホテル客室には、快適な空調、遮光性の高いファブリック、防音壁といった必要機能がついてくるので、窓から広がる借景の音は聞こえてこない。これを逆手に取り、スイートルームに「借音」という概念のもと、外の音を別の形で取り入れる装置を作り出した。
「#001 TOKYO」と名付けた重量感のある真空管アンプ(増幅装置)は、iPhoneに代表される現代のモバイルオーディオに対するアンチテーゼでもある。サウンドクリエイターの大河内康晴氏が渋谷界隈でフィールドレコーディングして制作した20分20秒のオリジナルのサウンドを縁側ソファ下のスピーカーから流すことで、宿泊客は、音と景色が結びつく、ここでしか味わえない体験をする。感動的な映画を観た後には、もう観る前の自分には戻れない。この部屋に訪れる前にはもう戻ることができない、そんな不可逆的な TOKYO 体験がここにはある。
Data
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Client
Mitsui Fudosan Hotel Management Co., Ltd.
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Hotel
Shibuya,Tokyo (Japan)
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Completion
2020.8
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Design
Masaki Kato, Yujiro Otaki,
Aki Hiraoka, Pooja C, Hanako Tani -
Produce
Welcome
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Construction
TAKENAKA CORPORATION
NOMURA Co., Ltd.